染屋焼きは、昭和32年、「重要民俗文化財」として国から指定された。常滑職人の指導で始められた「信州上田産
の常滑焼き」と言われており、創業は、江戸時代中期頃と推定されるが、記録が失われており、断定できない。
 いわゆる「焼き締め」で、釉薬を用いず、燃料の松灰が自然柚となっている。長野県には江戸時代から明治にかけて、
30余の窯場があったと言われているが、無柚のセッ器類は、染屋焼きと近所の下郷焼きだけである。

 上田市浄水場の坂の斜面に、かっては6基の登り窯と穴窯の窯跡があった。登り窯は、半地下式連房窯、穴窯は、
いわゆる鉄砲窯で、大きなものは、長さ12mほどあった。
 染屋台地の鉄分の極めて多い土を用い、酸化炎と還元炎によって焼き上げ、独特の色調をしており、
堅牢な日常雑器や瓶を製造していた。

 成型法は、「巻き上げ」「ひも作り」で、この方法が、明治の終わり頃まで用いられてたという。
80cmを超える水瓶もあり、そのがっちりした口縁は、車輪をはめたように見え、染屋焼き独特のものとなっている。

 上田付近は、日本でも有数の寡雨地帯で、どこの家でも飲料水は水瓶に貯えていた。このことが、染屋地籍での水瓶生産を盛んにしたのではないかと思われる。大瓶(水瓶・水こし瓶)小瓶、壺、ながし(水盤)、小鉢、擂り鉢、金魚鉢、植木鉢、灯篭、薬研、土管、便器などで、徳利のような袋物は見かけない。
 染屋焼窯の西沢家には、天明〜寛政幕末にかけて、彦右衛門や儀左衛門の有力な人物がおり、瓶や壺の口に押された刻印に「儀」「西沢半右衛門」などの名前が読みとれる。

 昭和8年まで、西沢家が染屋焼きを継承していたが、需要や流通の影響もあり、その後途絶え、現在に至っている。
                                              (上田市老人大学「染屋焼きの研究」より)  

ここ数年、染屋土に集中して取り組んでいる。この間で自分なりに得た感触、特長は以下の通りである。

@ 収縮が極めて強い

 どのくらい土が縮むかという「灼減率」24.7%。備前などの一般的な焼き締めは、10〜15%と言われているから、その数値はすごい。そのため、乾燥段階、焼成段階で切れる確率がかなり高い。穴窯の場合、作品の火表と火裏の温度差はかなりあるのでなおさらだ。また形状的には収縮の逃げ場がない袋物や、口のすぼんだ鉢なども切れやすいし、また口縁と中心との時間差、温度差が生じ切れやすい大皿などの平物も切れやすい。

A 鉄分が極めて多い

 鉄分の含有量は、は11.0%。焼き締めの多くは3〜8%といわれるが、これもかなりなものだ。鉄粉の塊に磁石を近づけると、くっついてくる。器肌に鉄粉が浮き出てきて、それが景色になっていいのだが、そこからひび割れを起こしやすい。酸化焼成での緋色、還元焼成での枯れた赤褐色は、鉄分が多いおかげで一層鮮やかになる。

B 湿気に極めて弱い

 焼成前の自然乾燥させた作品に、少しでも水分を含ませると、そこからスジが走り、切れてしまう。窯詰めの時に、湿った道具土を器の高台にかますと、あっという間に亀裂が入ってしまう。焼成段階では、100℃になる前に、切れるケースが多いことがわかった。

C 耐火度

 今までの文献では、染屋焼きは、1100〜1200℃ぐらいまで、2〜3日程度で焼成していたようだ。うちの窯では10日間、その差もあるのだろうが、単味では1230℃、ゼーゲル6番から7番程度までは持ちこたえる。耐火度の強い本城土を混ぜることにより1300℃ぐらいゼーゲル10番まで器体を保つことができている。その場合1250度ぐらいから生地そのものが釉化をはじめ、降りかかった灰と融合する現象を、作品の器面に見ることができる。この土の釉化も染屋の魅力だ。
 また、焼き締まる温度域が広く、1180℃ぐらいでも、水が漏らなくなる程度に焼き締まるという特長を持つ、と感じている。


D これらの特性を考慮した対処法は、

・作品の厚みや形状にあわせた土作り(鉄粉、礫の取り除く量の多寡)
・窯詰め前の空焚き、あぶり(100℃ぐらいまでの)は2日〜2日半
・成形後の乾燥は、丁寧な徐乾燥
 
 他に細かいことは多々あるが、現時点ではこのようなことと整理し、実践で取り組んでいる。

 長野の松代焼きを再興された唐木田先生が、40年ほど前に書かれた「信濃古窯夜話」。当時80歳(今生きておられれば120歳)になる染屋焼き職人の思い出話としての口上が残されている。焼き損じが多かった欠点を克服するための様々な工夫が述べられている。それらが、私がここ数年の試行錯誤の中で見つけ出した解決策の多くと符合する。もっと早く手に入れていれば・・・その復刻版が、上田市在住の高橋今朝男氏によって11年春,抜刷再版された。

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江間 廣の焼締め陶

染屋焼

唐木田先生からいただいた染屋焼土管

2. 染屋土の特長

1. 染屋焼の概要