俳句
名小路明之君の句             季語を知りたい場合はこちら
平成27年4月から白帆会(主宰:浅井民子先生)へ参加させて頂いた。俳句誌「帆」に掲載されたものを中心にして投稿したいと思います。 

令和5年
5月号
春光やうつわの水の反射光
蜜蜂にまかす受粉や梅の花
伝馬船波のしぶきの余寒かな
地図を手にスマホで写真臥竜梅
啓蟄や時の刻みの早まりて
  
令和5年
4月号
御御籤を引けば大吉竜の玉
春を待つ仁王の天に天女かな
川べりの草の垂氷のゆれにけり
荒東風や揺れをたのしむ舫ひ舟
春浅し池のさざ波風写す

令和5年
2・3月
合併号
夜な夜なをさ迷ふ狸多摩の里
冬めくや沸騰の音ききわけて
箱根路を鍛へる走者十二月
時代経し運慶五仏冬日和
山家には冬枯れの柿たわわなり
陽だまりのベンチ山茶花深紅なり
手の平に乗せてとかすや初氷
輪唱の冬の囀多摩の森
枯木立枝々の間に碧き空
寄鍋や好みの合ひて五十年

令和5年
1月号
謹賀新年
  左義長や邪気を燃やせと高々と
  左義長=どんど焼き=三九郎(松本地域)
故郷の空気の旨し返り花
六甲山の火矢にうき立つ豊の秋 六甲山を「ろっこう」と読む
蘆の穂や片足立ちの鷺の技(わざ)
読みふけし藤村の詩やふじ林檎
木の実降る貝殻坂やかって海
  貝殻坂は立川駅の南2キロにあり、昔は海が入り込んでいた
 
令和4年
12月号
湧水の池を染めたる曼殊沙華
紅天狗茸異界の径をふさぎけり
初冠雪富士山頂を清めたる
虫の声闇より掬ふ露天風呂
十月の雨武蔵野の森に浸む

令和4年
11月号
四人連れ熊野古道の秋の声   秋は空気が澄んでおり遠くの声も聞こえてくる
挨拶を小声で交はす野路の秋   散歩道を行交わすときの挨拶を詠む
露草や今日の印を指先に
白萩や大師の杖に揺れかかる
名月やかすめて西へ最終便

令和4年
10月号
早朝の光と影や牽牛花
黄金虫登りけはしき八十(やそ)の壁
シャツひとつ居どころさがす夏座敷
ラフティング御岳の渓の蟬時雨
   ラフティングは谷川をゴムボートで下るスポーツ
亡き父へ母へと継ぎし盆灯籠
 

令和4年
特別作品
タイトル:浅葱斑(あさぎまだら;蝶の名)
  盂蘭盆会年に一度の里の道
群雲や名月のぼる隅田川
秋の海浅葱斑の台湾行
朝露の光に触るるはけの径
外出の色物シャツや処暑の空
静寂をやぶる雨音秋の宵
大木犀歴史を伝ふ建物群
常念岳やぱりつと浸みる早生林檎  常念岳:じょうねん と読む
国宝の寺の庇や天高し
芦ノ湖の次は伊良湖か鷲わたる
 
令和4年
8・9月
合併号
水戸公の池の子亀も甲羅干し
夏シャツや皆疾走の原つぱら
花菖蒲多摩に国宝地蔵堂
  東京都の建物国宝はこの地蔵堂と迎賓館のみ
手入れせぬ庭も緑よ深呼吸
憶万年の命の由来夏来る
こちらへと白南風を呼ぶ朝の窓  白南風(しろはえ)
夕暮や胃を整へる冷奴
歴年の染みを消したし蛇の衣  蛇の衣(へぶのきぬ=蛇の抜け殻)
夜店の灯子供は夢を膨らます
負けそうな気力に活や夏蜜柑

令和4年
7月号
安曇野の麓へつづく花の雲
草取りや貨車の響きの地を這ひて
妻ともに今日の花見や五十年
太き鯉吾に真つ直ぐ夏の鯉
夏きざす始めぎこぎこ骨の音

令和4年
6月号
青柳を透かしてのぞむ隅田川
菜花咲き野川の流れ染めにけり
お花見や鴨の休める船の屋根
春眠やあと半刻を寝すごせり
雌を追ふ雄亀ゆるり水温む

令和4年
5月号
紋白蝶空より戦かなしまん
三椏(みつまた)の花の咽ぶや汀子逝く
    (汀子氏は高浜虚子の孫、「三椏の花三三が九三三が九」の句を残した)
春寒や戦場となるドニエプル
春残しゴンドラになる三日月
里山のシャイな鶯顔見せぬ

令和4年
4月号
干し物の湯気や春光まぶしめり
仏壇に燈る蝋燭梅一輪
春の雪駅へ行くひと豹柄に
雪掻きを覚悟の朝の良く晴れて
村はずれの雪庇にすくと道祖神  雪庇:(せっぴ)

令和4年
2・3月
合併号
蕾みたる枝も剪らねば冬薔薇
茶の花や最後を語る友の妻
手に傷の妻の代役おでん鍋
置く霜へ朝日のとどく芝の湯気
綿虫の気ままな浮遊追へやせぬ
買い足しの商店街や初景色
大鍋を喰らう覚悟や大根焚
地球危機ペガサス出でよ雪けりて
寒肥やふだんの無精挽回す  寒肥:(かんごえ)
晩学の成果まずまず木の葉髪

令和4年
1月号
かさなりて箪笥あふるる冬支度
武蔵野の化粧始まる立田姫
冬地蔵錫(しゃく)にクロスを見つけたり
龍潜む池には鯉も武州かな
冬蝶の息をひきとる草の中

令和3年
12月号
好天のきざしあらはる谷の霧
釣人へ寄れぬ静寂(しじま)や初尾花
遠富士や径のなぞへに小菊咲く
白萩のあふるる庭や朝の寺
野分晴ハスキー犬の川あそび

令和3年
11月号
処暑の水のんどをすぎる熱冷まし  のんど=のど
爪先に団栗はぬる野川かな
直売所一山売りの柿の色
我が庭の草の根強し栗羊羹
仲秋や隣家の灯(ともし)すこやかに

令和3年
10月号
木洩れ日の揺るる小径や文字摺草
盂蘭盆会御目見僧の一分刈
朝顔のあさの窓辺の紺絞り
萬星や谷より空へ天の川
斑鳩(いかるが)をサイクルで行く秋の風

令和3年
8・9月
合併号
み掌(て)欠くる仏のゑます額の花
草引きや夕べの雨の背にこぼる
朝涼の肌に郷里の記憶かな
卯の花や砂に吸はるる波の末
青梅に塩をすりこむ夕べかな
万緑や葉陰に鳥の鳴き立つる
鵜の休む岸に亀寄る神田濠(ほり)
雨蛙鳴き合ふ声を眠りまで
廃校舎フェンスに葡萄袋掛
行々子縄張り訴ふ草の丈   行々子(ヨシキリの別名)

令和3年
7月号
子の嬉嬉と追ふ母の吹くしゃぼん玉
 嘻」⇔「き(口偏に喜ぶ)」。環境依存文字なので嬉に代替しました。
春愁やワクチンを待つ医者の庭
荒れ庭の隅に見どころあやめ草
丹精の大輪の薔薇名はピース
万緑や鳥獣戯画の名演技
 
令和3年
6月号
           ととせ
春霞耐える十年のクレーン塔
安曇野の萌ゆる野末や父母の墓
近寄れぬダムの轟雪解かな
       おもざし
鑑真の面差し花をたのしめり
林間へ朝の日ざしや百千鳥

令和3年
5月号
 
サッカーを応援の父母風光る
合格す子の挨拶の大人びて
コロナ禍を沈丁の香の覆いけり
蒼天へ梅の香のたつ日和かな
散歩道野菜の棚に猫柳

令和3年
4月号
束の間の入り日に燃ゆる枯木立
淡雪やいつもの鳥のあわてよう
野川ぞい親も競えるいかのぼり   いかのぼり=凧あげ
青き踏む子を引く母の笑顔かな
スマホからアマビエ模写し湯ざめかな

令和3年
2・3月
合併号
                   たてじま
谷からの風は時雨を竪縞に
安曇野の北に立ちたる冬の虹
時雨るるや小走りに行く日本橋
      はは
餅搗や妣の思いの八の日に
籠り間の七彩映す冬の水
入り日まで野球する子の枯野かな
湧水や夕べに鴨の餌すする
太箸やこぞよりつなぐこの命
寒雀鉢の乾砂浴びにけり
繭玉の稔り象る妣の手よ
 
 
令和3年
1月号
               よごと
初日の出こぞの吉事をかみしむる  
  山茶花のゆつくり咲けよ白が好き
秋の海電車に溢るる反射光
冬薔薇の咲き頃今朝の食卓に
故郷や野沢菜漬くる頃ならむ
一句寸評(浅井民子)
「野沢菜」は漬物でよく知られた信州地方の農産物として有名で、多くの人に愛されている。安曇野がふるさとの作者、冬が来れば先ず、「野沢菜」の望郷の一句が生まれる。一年の四季の変化と、年中行事に関する幼少からの経験と明確な知識を持つ作者は、明快な作品が発表される。体験は豊かな詩囊(しのう)を作る。
冬立つや三密車窓開け走る
 
令和2年
12月号
道の駅ならぶバケツに秋の花
洋梨の熟るるしづくをのんどかな
秋雨や雨の多少を濃淡で
夕風に一叢揺るるゑのこ草

令和2年
11月号
石庭の祈る母子像晩夏光
目比べを為合う子の夜の野分かな
 目比べ(意味:にらめっこ)   為合う(読み:しあう)
江戸調子涵徳亭の蝉しぐれ
 涵徳亭(水戸藩の下屋敷跡で東京ドームに隣接)
とうすみの隅の小藪の住処かな   とうすみ(糸トンボ)
泥の手で蚊を打ちそこね夕日かな

令和2年
10月号
小伝馬の寂びる裏みち花桔梗
犬眠る午後や涼しき通し土間
鬼百合へ舞うがごとくに揚羽蝶
捨て水も命の水よ秋揚羽
我庭の秋海棠を供花(くうげ)かな




俳壇

10
月号
掲載
この先は二輛列車や稲の国
安曇野の大地うるはし栗を食む
錦木の色重なりて浄土とも
澤の音消えて峠や紅葉狩
雁がねの棹の消えゆく甲斐の朝
安曇野の濃霧伏せをる夜明かな
中秋や雲にたゆたう舟は月

令和2年
8・9月
合併号
籠る家に子より見舞いの柏餅
薫風やまはりはじむる有平棒   有平棒(あるへいぼ)=床屋のコールサイン
傘かかげ雨より守る白牡丹
雨上がりトップスピード夏燕
皇后の夏蚕育つや令和の世   夏蚕(なつご)=初夏に孵化して育てる蚕
月見草さゆらぎゆらぎ花開く
なめくぢり白き花弁をはふ夜かな

令和2年
7月
春眠やかすかに触るる妻のこゑ
のどけしや松風にのる二羽の鳶
花の雲まぢかに富士山のおはしけり
苧環の花へ疾風の八つ当り    苧環(おだまき)
青しぐれ禽くちばしで翅ぬぐひ    禽(とり)  翅(はね)
        青しぐれとは:緑が一杯の頃

令和2年
6月
変わらぬは常念岳よ風光る
初蝶来黄色の満つる日和かな
親愛の握手ひかへる桜人
春障子直屋隠りをつづけけり
  直屋隠り(ひたやこもり)は徹底的に家に籠る意味です。
鮫のごとき得体の知れぬ春の雲
 

令和2年
5月
梅三分雨の雫の染まりけり
  亀鳴くやコロナウイルス忍びよる
足とられはたと転倒山笑う
引鶴の消えゆく空や翅の音
内裏雛子の並びゐる御座の卓

令和2年
4月
子の恐る寒柝の列うすあかり
   寒柝(かんたく:冬の夜に打つ拍子木)
剪定や後継ぎをらぬ果樹園主
いつのまに禽の餌となる白椿
寒の空四方に火矢の走りけり
春光やヴェネチヤ花器の花もやう

令和2年
2・3月
合併号
浜名湖の小舟のゆるる寒蜆
子の家の手作り味噌や今朝の味
返り花業平橋に立ち止まる
安曇野や室の大根の白きひげ
逆光にかすかな湯気や霜の屋根
湯煙のなぞる廂に氷柱かな
芭蕉像へ川風寒し小名木川

令和2年
1月
野分晴くろずむ湖の反射光
澤の音消えて峠や紅葉狩
渓流の岩とび渡る橅黄葉(ぶなもみじ)
 橅」⇔「ぶな(木偏に無)」。環境依存文字で正しく表示できません。
段丘を赤き林檎のひかりけり
千年をこゆる文化や秋気澄む

令和元年
12月
田の石をひねもす打てる添水(そうず)かな
夕餉あと命の水の梨をむく
子と囲む朝の食卓豊の秋
木曽谷のわずかな畑や蕎麦の花
曼殊沙華芽の伸びはじむ七日前

令和元年
11月
夕暮れの身を尽くし鳴く法師蝉
思い出の蚊帳にひとりやほのあかり
五目並べ子に二度負くる残暑かな
涼新た寝返りてまた眠りけり
秋草の花それぞれの位置をもち

令和元年
10月
ほほえみのミュシャの乙女のうすごろも
駒形の板の間に膳泥鰌汁
夏休み気温十度の地下空間
炎天や茹であがるとはこのことか
つながりて連峰となる雲の峰

令和元年
8・9月
合併号
湯ばたけをあつむる滝や碧の壺
夏掛けや闇をしまひてねむらんか
紫陽花やときに色もの羽織りたき
アナベルの白花尽くす梅雨入かな
逝きし子の冥福祈る矢車の音
夏至の野に日のおつるまで遊ばんと
威勢良き街の八百屋よ枇杷熟るる

令和元年
7月号
たかんなの朝掘りと知る夕餉かな
鯉のぼり常念岳の風うまからむ
清里より残雪の富士また新た
夏は来ぬボタンダウンの胸に風
若冲の鶏の羽ばたく扇子かな

令和元年
6月号
飛花落花病もつれて散るといふ
春光や下界をのぞく鉄階段
花ミモザ三女も通ふ保育園
菜の花や国の生まるる頃の色
鶯や一拍とまる登る足

令和元年
5月号
ぬか雨に沈丁の香のたたずみぬ
万歳の枯木や天に生を受く
瑠璃越しの鳥のあそべる日永かな
若冲の五彩の羽や春ショール
関八州北へひろごる春の空

平成31年
4月号
風花を吹き出す雲や麓まで
大寒を乗せて無口な列車かな
君の逝く旅の終着冬銀河
白鼻心鼠籠に入る寒の明
せがまれてディズニーに寄る雪女郎

平成31年
2・3月
合併号
冬至の夜天球しかと動きをり
床上げや土のにほひの小春の日
新道具そろへ意気込む煤払い
蒟蒻玉三年ものに土の精
笑はるるほどに着ぶくれハイキング
冬ざれや富士くろぐろと夜分け前
安曇野の動くものなき寒の朝

平成31年
1月号
富士りんご村は収穫日和かな
いわしぐも空一面に風の形
鳥渡るゆめかうつつか鳥が呼ぶ
安曇野の伏せし濃霧の夜明かな
青天や林檎パリッと素手で割る
新年句 歯固やかち栗の皮歯で剥かむ

平成30年
12月号
朝霧や音しんしんと木から木へ
奥社まで二キロとしるす落葉道
見ごろにて庭の真中に菊の鉢
蓑虫や餌は足るるか蓑の中
秋雲の底ひを染むる入日かな

平成30年
11月号
秋あかね乱舞の園となりにけり
この先は二輌列車や稲の国
女王花時をあはする二輪かな
これがまあ朝から待てる今日の月
近寄ればまさに清らや草の花

平成30年
10月
特別作品


「溝萩」
(みそはぎ)
宿題を姉妹で競ふ夏休み
冬瓜の食べごろ今ぞ妣の味
甚平や年に一度のお披露目を
一陣の風の生まるる簾かな
溝萩やこぼれて棚に色そへる
秋の蚊を追いのがしたる四畳半
玄海を茜に砥げる秋夕焼
武蔵野や生まれはじむるいわし雲
田や畑へ野分の恵み蜻蛉島
今宵また湯舟にしづむ虫しぐれ

平成30年
10月号
ひいふうみ針先ほどのめだかの子
生きのびるための昼寝ぞ日曜日
戻りみち首に一筋汗ながる
空蝉と落蝉ならぶアスファルト
垣越しに利きめ聞かるる蚊遣香

平成30年
9月号
蔵の黴米のうまさを醸しけり
渓の湯のあふるる音や額の花
オフィスまでビルの片陰選びけり
夏蝶の翅音まとふや庭弄り
夏の川巌に高きしぶきかな
妣 (はは)の知恵闇に十薬干ししまま
夕薄暑洗ひ晒しを風抜ける

平成30年
7月号
老鶯や息一杯に鳴き尽くす
一瞬の黄揚羽まとふ庭いぢり
轟けるダムの放流渓若葉
境内の若葉の威厳木曽路かな
移植せる妣たんせいの白牡丹

平成30年
6月号
安曇野や遠き前穂のはだれ雪
花吹雪すかしの衣となりにけり
翡翠を柴木の間に待ちにけり   翡翠 : かわせみ
健やかを天に願うて鯉幟
フェロモンをぬぐひ斷つるや蟻の道

平成30年
5月号
啓蟄や襲 (かさね)一枚脱ぐ躊躇
恋猫のほえてよこぎる荒地かな
大雨に誘はれ弥生涌きいづる
春来たる空也の口に六仏
あたたかや妹をなぐさむ姉のゐて

平成30年
4月号
玻璃越しの鳥の遊び場春光る
月と日の弥次郎兵衛なる枯野かな
冴ゆる夜のもゆる赤銅皆既食
料峭や法事の経を皆唱なう
太陽と目くばせかはす福寿草

平成30年
3月号
賽銭の小銭なくなる福詣
床の間に橙飾る神の席
冬青空人体透けて見えそうな
寒桜伯母の命日めぐり来る
遠い日や下駄スケートの痛きこと

平成30年
2月号
から松の金糸の枯葉肩に背に
傘傾げあふ武蔵野の夕時雨
山の湯へ険しき道や枯尾花
朝五時の一人風呂なる雪見かな
湯けむりの湯屋にからまる雪景色

平成30年
1月号
鎮守社へ風ばかり過ぐ神の留守
運動会嶺までとどく大声援
遠富士の底に車列や冬紅葉
雁の棹かぞふる朝の甲斐路かな
高みよりここは己が地鵙高音

平成29年
12月号
中宮寺 我と在(ま)す半跏思惟像薄もみじ
名月の鎮もる古都を照らしけり
ペダル踏む斑鳩のみち秋桜
鰯雲太子の徳の今もなお
平城京 手つかずに土に眠るや古都の秋

平成29年
11月号
削り氷の古き削り器削る音
白桃をほほばりけふの元気かな
長風呂や一人聞き入る虫時雨
一年が虫の一生今鳴けり
ペルセウス座流星群 母守護に宇宙翔くるや流星群

平成29年
10月号
地下世界問うてみたきや今朝の蝉
男にもちょいとひと噴き香水を
西瓜市四軒まわり試し喰い
清流の風をいざなふ秋扇
先人の知恵の遥かや星祭

平成29年
9月号
故郷の赤錆炎ゆる鉄路かな
一寸の蜥蜴一瞬草の中
目の合うて金魚反転尾をふりて
炎天下揺るるや遠きガスタンク
遠雷や山麓つたふ神の音

平成29年
8月号
自動車に郷里の蠅や連れ帰る
大空へ航跡自在つばくらめ
薫風やすれちがふ鳩すまし顔
六月やジャングルとなる庭模様
知らぬとてそこは危険ぞ雀の子

平成29年
7月号
平家の里 平曲の朗朗ながる木の芽風
霾るや視力低下をうべなへり
芝桜富士一山を引き立つる
静けさや宿の目覚めの木の芽雨
曜変天目 曜変の異彩や春の薄明かり

平成29年
6月号
芽柳の見えざる風をとらえけり
末広亭 試し酒の扇の仕草春の夜
名草の芽天地の恵み受けにけり
生と死のねむりの中の母の春
松陰の終焉の地の桜かな

平成29年
5月号
空と樹の間(あい)にふくらむ木の芽かな
鳥雲に豊かな山野見ずにゆく
春めくや魚は水面の様子見に
父の彫りし恵比寿大黒春障子
一列に白帆のすすむ春の波

平成29年
4月号
暁の福茶の恵みいただきぬ
故郷の道はかはらぬ恵方道(えほのみち)
冬の月雑木林の籤(ひご)の中
鼻先のしむるシベリア寒気団
親と子の似たる寝姿春炬燵
特別作品

雪の渦

過去3年間から選別
鳥居出づ元朝の日矢満ちて来し
歌かるた終りの二枚並び替
アルプスを越えてわきくる雪の渦
通勤の階段春と駆け上がる
千の雛石の階(きざはし)かざりけり
朝風の染まり流るる八重桜
健やかを祈り節句の菖蒲剪る
子供らの浴衣の掛かる朝の居間
行く先も速さも自在鬼やんま
錦木の色重なりて浄土とも

平成29年
2月・3月
合併号
武蔵野の夕日のはぬる枯木立
百合樹の新生を待つ落葉かな
遠目にも銀杏黄葉の栄ゑにけり
陽光の楓紅葉を透かしみる
暁の外気は零度山眠る
特別作品


安曇野
安曇野の大地うるはし栗を食む
故郷の墓を洗へり小糠雨
こまやかな形ひそやか野菊咲く
安曇野の山も麓も小春かな
色鳥や古屋の庭の草粗し
今年米頼む電話の声はづむ
故郷の思い出尽きぬ長夜かな
冬雲の割れて日矢濃き麓村
けふからは他人の住まひ夕しぐれ
暁に染まる初雪常念岳

平成29年
1月号
懸崖の小菊まなかや菊花展
その度に訳ある酒や神無月
初時雨帰宅電車の窓潤む
晴れわたり脳へ刺激や文化の日
同期会終はる安堵や冬に入る

平成28年
12月号
枕辺へ波のとよもす秋の旅
朝の日矢桜落葉は円を描く
少年の声は森から小鳥来る
そこここに声甲走(かんばし)る花野かな
創作の余生となりぬ長き夜

平成28年
11月号
蟷螂の構えてゐたる草の先
髭剃りの切れ味にぶる残暑かな
いちどきに台風三つ星病める
山畑に農夫の影や白露の日
中秋や雲にいざよふ月の船

平成28年
10月号
鬼百合の気怠き顔の夕べかな
都会では見られぬ勢ひ雲の峰
奥秩父大気吸ひこむ大夕焼
ひとり住む母の得意や土用灸
阿波踊り鉦鼓一打に構へけり

平成28年
8・9月
合併号
旅の果巽の空に夏至の月
よいしやよいしやと神の轍や御柱
蝸牛よそ見のうちに失せにけり
女王花ゆうべ4輪の孤独かな
大夕焼ビルたくましくなりにけり
末の子の食事みる姉梅雨晴間
咲きほこる薔薇に神秘の深まりぬ

平成28年
7月号
ひとときの家族だんらん春の星
青空を反転反転初燕
朝風の染まりながるる八重桜
無人駅逃げ水に浮く旅の人
生垣を過ぎれば風の薫りけり

平成28年
6月号
一片の空わたりゆく落花かな
はにかめる子の髪にのる落花かな
水音のきこゆる茶室濃やまぶき
床の間にかかる花籠花の陰
学舎の門柱越ゆる花の雲

平成28年
5月号
菜の花や三浦岬の不動尊
千の雛石の階かざりけり
円陣の中へひとひら桜かな
土あげてこの世をのぞく蕗の薹
かがやきて汀を洗ふ春の海

平成28年
4月号
寒月のオリオン星を隠しをり
山里の寒禽の声地にうもる
大寒のくもる車窓に火のにじむ
歌かるた終りの二枚並べ替え
太陽を横ぎる冬の機影かな

平成28年
3月号
芝浜を家族で笑ふ年の暮
鳥居出づ元朝の火矢満ちてきし
掃き寄するものみな乾く寒の入り
凍土の餌すすりをる鳥の群
アルプスを越えてわきくる雪の渦

平成28年
2月号
空つ風スカイツリイの孤高かな
山茶花の咲継ぐままや夕まぐれ
威勢よく鳴らす手拍子酉の市
疎水ゆく一葉ひとはの落葉かな
しぐるるや踊る人形ショウウインドウ

平成28年
1月号
錦木の色重なりて浄土とも
橙に軒を染めたる吊るし柿
静けさや落ちる一葉の音のあり
音かすか安曇の里の時雨かな
季替りの光彩交じり冬来たる

平成27年
12月号

ひんがしに嵐の後の秋の虹

塩田の風に乗りたる鬼やんま
朝の日矢とんぼの羽の皺ひかる
秋晴れやさそい上手な能登訛
関八州北の端まで見ゆる秋

平成27年
11月号
かわきたる畑をととのへ大根蒔く
刈り込みし植木の枝に蛇の衣
外燈は夜霧の粒を映しけり
里山や靴にしみ入る秋黴雨
行く先も速さも自在鬼やんま

平成27年
10月号
鳴き声は雉子の闘志よ山巡る
染み多き手にまとひつく天道虫
子供らの浴衣の掛かる朝の居間
湯上がりの夜風の涼し鏡みる
ふるさとの思い出たぐる盂蘭盆会

平成27年
8・9月
合併号
夏帽子大川に入る夕日かな
萬緑や電車の中の山ガール
大屋根の上にたかだか朴の花
菩提寺の四葩は色を競ひけり
草取りのかがみし顔に草の丈
白靴や風きつて行く駅の道
大向日葵太陽の子となりにけり

平成27年
7月号
大空に伸びさかりたる松の芯
若楓さみどりの風見えにけり
花水木街ゆく人の溌剌と
蔓薔薇の色の花蕊つみにけり
健やかを祈り節句の菖蒲剪る

平成27年
6月号
通勤の階段春と駆け上がる
花筵おかめひをとこ踊りけり
花筏弁天様の乗りたもう
散りゆける花の輪廻を楽しまむ
水換えて泥鰌は春をはね上ぐる

平成27年
5月号
寒月の空に大穴あけにけり
後ろよりブーツの音の寒夜かな
かわるがわる抱きて泣かるる初雛
隅田川岸さみどりの木の芽かな
春の舟ゆきて水辺の浮き沈み
月刊誌「俳壇」5月号日本俳句風土記(浅井民子先生)へ掲載
江戸っ子の鴎は岸に春寒し
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