実 践 雪 崩 対 策

「積雪前の斜面状況&その年の積もり方を知る」
①氷結上の新雪斜面
②ハイ松斜面
③スラブ斜面
④大小の岩塊が重なり合っている斜面
⑤森林帯斜面
  雪崩のおこり易い斜面(地盤)は①②③で④⑤は天然の雪止め柵があって落ちにくい。
  積る前の斜面偵察は雪崩に遭わないための第一章なり。
  雪深い山に入るには、いったん冬型の気候が緩んで雪が沈み、結合性(安定性)が良く
  なる2月中旬以降が安全の目安。土地の古老に学んだ私の回避策だ。
   
      [ 雪崩二景 ]
             







「雪崩の前歴を知る」
  雪崩のニュ-スを聞いたら現場を見に行き(或は春になってから訪ね)土地の古老や山案
  内人等から話を聞いて、規模や常習性を判断する。
  常習性の特徴斜面としては
   ①草木の無いスラブ帯。毛無沢など、毛無○○などとの名の付く場所は特に常習性が
     あって厳重注意の場所。
   ②滑り心を誘うような林間帯の開けたスロ-プ。
   ③夏の初めころまで硬い残雪群(残雪塊)が残る登山道や沢中の側斜面。
   ④大木が連続してなぎ倒されている斜面。
   ⑤春先の、沢中や斜面下の雪塊は斜面上部からの雪崩の末端。ここも厳重注意だ。

「雪中呼吸法」
 雪崩に巻き込まれると人はショックで気を失うことが多い。気を失うから雪崩の流れのま
 まにあちこちぶつかって、失神状態で埋まってしまうのだ。
 まずは気を失わないこと。例え巻き込まれても気を失わなければなんとかなるのであり、
 そのための特訓として、
  ①新雪の中に頭を突っ込み、目を開いて、両手で顔の前の雪をかきわけて、、息を止
    めたり呼吸ををしてみて、圧迫感や恐怖感に慣れる。
  ②高い所から雪中に飛び込み、転げたりして雪に対して大胆になる特訓をする。

「本流よりも支流が危ない」 
 正確には本流との出合付近。支流(枝沢)の沢相は側壁が急峻構造で落ちやすく、加え
 て沢底の位置が本流より高いせいもあって、落ちた勢いが衰えずに本流へとなだれ込
 む。例へば北アルプス蒲田川左俣谷の穴毛谷や秩父沢。針ノ木谷大沢小屋上部の左
 岸側等、大きな雪崩事故が過去に幾度か繰り返えされている。
 ①出合(沢の合流地点)付近では見張り役を立てるなどしての安全策をして、落下に備
   えて反対側を通過する。前歴のある場所では高巻き気味にコ-スを採るなど、さらな
   る用心を加えたい。
 ②懸念されるU字状斜面を滑降の際は、日当たり量の少ない方(斜面)が落ちる確率は
   少ないが、ここでも見張り役をたて、充分な間隔をあけて一人ずつ、途中止まらずに
   不安地帯をきり抜けたい。 

森林帯から稜線に出る」
 冬山ではカモシカさえも雪崩にやられていて、雪崩の発生予測は人間技の先の先であ
 る。そんななか、森林帯から稜線に出るル-ト採りはセオリーのセオリー。 かっての大
 学山岳部などの著名アプローチル-トが穂高や立山・剣にはあり、知恵あるパ-ティは
 今もそれを利用している筈だ。
 森林帯をシ-ルで登行する際、尾根状の所は幾分雪が浅くラッセルが楽になり、大樹の
 下はたいてい緩い斜面になっていて、そこを折り返し点にしてジグザク登りをすればキッ
 クタ-ンも容易なはずだ。

滑り前の雪質チェック」
 新旧雪の結合性(安定性)チェックは、斜面の上・下(4~5メ-トル間隔)に斜滑降で2
 本の切れ目を入れて、上の切れ目からドンドン蹴り込むように刺激をあたえてやる。2、
 3度やって落ちなければ問題ない。ただし斜面状態は刻々と変化していて、落ちそうで
 落ちなかったり、信じていた斜面が落ちたりと、山でスキ-を何十年やってても判断に
 は戸惑ったりもするが、斜面ごとにテストをするのも大難儀。雪を握って湿雪状態を測り
 ストックを突いて雪中の新旧交わり様子を探るなど、回数を重ねてその様な術も学びた
 い。

「雪崩の落下道を知ってル-ト採りをする
 雪崩はフオ-ルライン(最大傾斜線)方法にまっすぐ落ちる。落下エネルギーは大木を
 なぎ倒し、停止位置ではそのエネルギーが凝縮されて岩をも砕く圧縮力になる。
 しかしだ。やばそうな斜面ではこれを逆に利用する策もあり、滑るまえに稜線直下を意
 意的に切り裂いて、人工的に表層部を落としてしまうのだ。落としてしまえばそこは雪
 崩の心配はない。落とす際にロ-プビレ-をお忘れなく !!

「膝以上の深雪斜面は一人づつ」
 落ちそうな気配の斜面はひとりずつ。大勢で一度に飛び込むより斜面への刺激も少なく、
 その方が安全だからだ。
 滑りかたは回転幅を横に広げずに浅回りタ-ン。滑りの距離は1本の長さを7~80メ-ト
 ルくらいにして、滑った順に立ち木や岩にビレ-を採って退避場所とするといい。ビレ-
 ポイントのない場合にも、斜面の端により、ストックをまとめてグりップから深く雪中にさし
 ポイントとするといい。
 又、深雪帯でのビンデングの誤解放はいただけないが、万一に備えての長目(5~60セ
 ンチ)の流れ止は必要装備。柔い雪中でのスム-ズな着脱操作(ビンデングの)も大切
 なポイントだ。

「後続パ-ティに厳重注意」

 過去の雪崩事故にはそれと思われる事例が何件かある。 人気バックカントリースキ-
 コ-スでは、滑降ラインへの集中力同様斜面上部へも気配りが欠かせず、上部に人影
 を見たらホイッスル等で自分たちの存在を知らせよう。自衛策としては上部滑降グルー
 プのフオ-ルライン下を避けて待機し、到着を待ってそれなりの話し合いをすることだ。
 問題はガスの日だ。入山口や途中の休憩ポイントで後続パ-ティの有無を確かめ、雪
 崩の懸念がある斜面では出来れば滑り出しを一緒にするなど、安全協力と譲り合いの
 精神がマナー。バックカントリースキ-では大切な安全策だ。

「リ-ダの役割」
 雪庇を落としたり、滑る前の雪質チェックなど、リ-ダの役割は戦争映画の小隊長みた
 いな役割であり、大役は仲間たちを束ねる把握力にある。前々項の場面に遭遇した場
 合リ-ダは中間付近で合図を出し、斜面全体を注視しながらも、集合の時に誰かが居
 ないなどの事態にならないように、一人一人の滑りや位置関係を把握できる場所にい
 て、不慮の際(雪崩発生の際)にも即助け出せる態勢、心構えを。リ-ダは誰でもがな
 れるわけではない。

「もしもの時には末端から探す」
 下見をして慎重にル-トを選んで、それでもやられる時にはやられる。万一、雪崩がお
 さまって不明者がいた場合は雪崩の止まった末端位置から探すこと。過去の例にも何
 件かあるが、流されるままに無抵抗でいると、大抵末端まで流されている (途中で止
 まった場合には自力で脱出できる) 二重的な発生もあるので警戒は必要だが、敏捷
 性(10分以内)が無事なる救出の最大ポイント。気を失っている場合、分単位で事態は
 悪化することを覚えておこう。





※ 近年の「バックカントリースキ-エリア」 のスロ-プ傾向

 近年の冬のように寒暖差の大きい年の雪斜面は、前記項目最初の ①の事態になって
 いる。表層雪崩の発生し易い状態になっていると言うことだ。現に乗鞍岳で(乗鞍岳は
 雪崩発生の要素が少ない山)過去に例のない場所での事故があった。今後も同じ様な
 気象めぐりが予測されるので、例年以上の慎重さと気配りが必要である様に思える。 













 

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