都市大気汚染

大気汚染と花粉症との関連評価
   大気汚染と花粉症との関係は、交通量の多い日光街道沿いに居住する住民は道路より離れた地域に住み、花粉吸入量が多いと推定される住民より高い有病率を示したという報告以来、注目された、その後郡部より市部に多いとの報告が続き、一方、ディーゼル排気ガスが花粉症発生についてアジュバント効果があるとの実験結果が発表され、さらに関心を集めている。実験研究による知見についてはディーゼル排ガスの関与を疑わせるものが多いが、疫学研究の結果については必ずしも一貫していない。

室内空気汚染の評価
   わが国においては、室内に開放型ストーブ、炊事用器具などの汚染発生源があり、NO2、COなどの汚染物質濃度はそれらの使用時にはー般的に戸外より高い。したがって戸外の大気汚染の健康への影響を評価するとき、生活の90%を過ごす屋内での空気汚染による曝露状況も加えて総曝露量を決定しなければ正当な評価はできない。一方、発生源が室内に存在するものもある。家屋が高気密になると建材、家具などから発生するホルムアルデヒド、その他の有機物質などの化学物質、タバコの煙などの有害物質の屋内からの排除が妨げられ、一方、ダニ、カビなどの繁殖に適当な環境条件が与えられている。米国ではオイルショックの1970年代に建てられた換気の不良なビルオフィスで働く勤務者の中に咳、めまい、頭痛、眼刺激、胸部絞扼感、集中力困難を主訴とする患者が発生し、シックビルディングシンドロームと呼ばれ社会問題化した。わが国では最近シックハウス問題として関心が高まってきている。このほかにもレジオネラ菌による空気汚染など室内空気汚染の問題は化学物質から細菌まで幅が広い。

未然防止
   大気汚染による健康被害に関する訴訟やディーゼル排ガスの発癌性に関する議論でも明らかなように、大気汚染物質と健康被害との因果関係については科学的に未解明となっているものが多い。しかしながら、それらの因果関係が完全に解明されるまで何ら大気汚染防止の対策が講じられないのであれば、それは大きな誤りを犯すことになる。このために1996年に大気汚染防止法が改正され、未然防止の考え方が明示された。すなわち、「有害大気汚染物質による大気の汚染の防止に関する施策その他の措置は、科学的知見の充実の下に、将来にわたって人の健康に係る被害が未然に防止されることを旨として、実施されなければならない(大気汚染防止法第18条)」と定められた。したがって。ディーゼル車をはじめとする自動車排ガスによる都市大気汚染の問題は、緊急の課題として取り組まなければならない。それには個々の自動車に対する規制のみならず、自動車走行台数の規制、幹線道路トンネルの脱硝装置の設置、電気自動車の普及、公共輸送機関の整備などの、考え得る方策を駆使していかなければならない。自動車公害の問題はわれわれ自身が発生源者である場合もあり、ライフスタイルの変更をせまられる場面が出てくることも考えられる。先に述べたようにわれわれは屋外の空気のみを吸って生活しているわけではなく、室内の空気環境を含めて、われわれを取り巻く空気環境の総体を健全に保つために知恵を出していかなければならない。


(小児科別冊 Vol.41 7月臨時増刊号、都市大気汚染、村上孝夫氏著より抜粋)