注意欠陥・多動障害
最近、校医として健康診断や予防注射に出かけると、非常に落ちつきなく、なにかちょっかいを出したがる子供が目に付くことが多くなりました。また、ふだんの診療でも、ご両親の甘やかしのみとは思えない、情緒不安定な子供をみる機会が増えてきました。このような子供の一部に「注意欠陥・多動障害」(別名:多動性傷害)という病気が隠れている場合があります。Attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHDと略します。)
ここでこの病気を取り上げた理由は、この疾患が古くから報告されているものではありますが、近年ADHDと思われる子供との遭遇機会が増えており、今後更にそのようなこどもが増加する可能性があるのではないかと感じていること。そして、そのような子供を持つ親御さんの苦悩、教育現場での担任教師の苦労を考えますと、社会全体としてこの子らをケア出来る体制をつくる必要があるのではないかと考えているからです。そのためには皆さんにこの疾患の概念を理解いただき、どうして社会全体としての対応が必要なのかをおわかりいただけたらと思っています。
以下の文章は小児科診療(2000年10月号 宮本信也先生の論文から抜粋させていただきました)
<疫学>
この疾患は小児のおよそ3%前後にみられ、男女比では4〜6:1と男児に多い特徴があります。
小児期にADHDと診断されたこどもでは、高校生・大学生の青春期では60〜80%が、成人になっても30〜50%が何らかの症状を残しているとも言われている。
<病因>
遺伝的素因(ADHDの子供の父親の25%に同様の特徴が認められたという報告もある)や環境要因、神経伝達物質との関連なども想定されていますが、直接原因は不明です。頭部CT検査で前頭葉や線状体の縮小傾向が指摘されているがその意味は不明である。
<症状>
三大基本症状として注意力障害、多動性、衝動性があります。
診断基準に関しては最後に掲載してあります。参考にご覧ください。
* ただし、E項目にある疾患がある場合はそちらが優先されます。
症状は年齢により以下の様に変化していきます。
| 乳児期 | 二つの異なるタイプがある ・ おとなしく手のかからないタイプ(発達障害のため周囲への関心や探索行動が発達していないことによる可能性もある) ・刺激に敏感で、よく泣いたりむずがったりする。抱いていないと寝ない。夜泣きが激しい。身体がそわそわ動いている。生活リズムが不規則である。 |
| 幼児期 | ・文字通り多動でありじっとしていない ・集団からはずれた行動が目立つ ・危ないところ・知らない場所でもすくにどこかに行ってしまう(親が目を離せない) ・迷子になりやすい(本人はケロッとしている) ・順番を待てない ・気分のムラが激しく、動作が乱暴である ・遊びが長続きしない、人の話を聞いていない、話されたことをすぐ忘れる ・発達性言語障害(理解力はアルが表現能力が劣る・・・・発達性表出性言語障害のタイプが多い) ・発達性協応運動障害(不器用さのため微細な手の動きがうまくいず、そのためイライラしやすくなる) |
| 学童期 | 診断基準の各項目がそのまま該当する。 ・授業中ボーッとしている ・授業時間の態度が悪い(勝手なことをする) ・好きな授業と、嫌いな授業の授業態度が極端に異なる など 合併症 ・認知面・・・・学習障害(知的レベルは境界線−IQ70−以上を示すが、アンバランスさを認めるものが多い) ・精神行動面・・・・適応障害と反抗挑戦性障害(幼児期からの失敗体験や被注意叱責体験が多いこと、言語・認知能力の問題で勉強がうまく進まないためなどが原因となる) ・運動能力のアンバランスさに伴う運動面での劣等意識からの自信喪失、自尊心の低下 |
| 青年期 | 中学生以降は二次的な精神行動面の問題が中心となる ・精神面:抑うつ状態と不安定状態(自尊心の低下による) ・行動面:行為障害(他人の基本的権利や年齢相当の社会的ルールや常識を侵犯する行為の持続) *具体的には、万引き・窃盗・傷害など、いわゆる非行のことと理解して良い |
* 基本症状はほとんどの場合10歳前後を境に急激にその程度が減少するといわれています。しかし、基本症状とは別に、精神行動面の合併症は年齢が上がるにつれ増加する傾向があります。
そのような、反抗挑戦性障害、行為障害、そして反社会的人格障害への変遷を防ぐためにもADHD児たちが自己の存在意義を認識する(自分は、いて良い存在であるという思い、自分には価値があるという思い、自分は周囲のひとから思われているという思いなど)ことを目標に、周囲の大人の行動コントロール力の強化、患児自信のトラブルの処理能力の強化、そして薬物療法の三者の組み合わせが必要です。(ただ残念なことに一番利用される「リタリン」という薬剤が万能なわけではありません)
周囲の人間の共感的理解と無理のない範囲での学力の保障を行うことが大切です。そのためには一部の親御さんたちのには反感を持たれることもあると思われますが、学習障害児の教科学習指導と同じ対応が必要となります。
表 1 注意欠陥・多動障害の診断基準(DSM-IV,1994)
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A.(1)か(2)があること (1)以下の注意力障害を示す項目のうち6項目以上が少なくとも6ヵ月以上持続しており,それは日常生活に支障をきたし,かつ,発達段階に不相応なこと 注意障害 (a)勉強や仕事,あるいは,他の活動時に,細かい注意を払うことができなかりたり,ちょっとした誤り(careless mistakes)を起こすことが多い (b)課題や遊びにおいて注意を持続することが困難なことが多い (c)話しかけられても聞いていないことが多い (d)指示を最後まで聞けず,勉強やちょっとした仕事,あるいは,職場でのやるべき仕事をやり遂げることができないことが多い(反抗や指示の理解不定のためではない) (e)課題や仕事をまとめることができないことが多い (f)持続した精神活動が必要な課題をさけたり,嫌ったり,ためらったりすることが多い(学校の授業や宿題など) (g)課題や他の活動に必要な物をなくすることが多い(例えば,おもちゃ,学校で必要な物,鉛筆,本,その他の道具など) (h)外からの刺激ですぐに気が散りやすい (i)その日にやることを忘れやすい (2)以下の多動性や衝動性を示す項目のうち6項百以上が少なくとも6ヵ月以上持統しており,ぞれは日常生活に支障をきたし,かつ,発達段階に不相応なこと 多動性 (a)手や足をよく動かしてそわそわしたり,椅子の上でもじもじすることが多い (b)教室や座っていなければいけない状況で離席することが多い (c)してはいけない状況で走り回ったりあちこちよじ登ったりすることが多い (思春期や成人においては,落ち着かないという主観的な感情だけのこともある) (d)静かに麻生部事が苦手なことが多い (e)絶えず動いていたり,駆り立てられたように動くことが多い (f)過剰に話すことが多い 衝動性 (g)質問が終わっていないのに答えてしまうことが多い (h)順番に待つことが苦手なことが多い (i)他の人がやっていることをじゃましたりむりやり入り込んだりすることが多い(例えば,他の人の会話やゲームに首を突っ込む,など) B.障害をきたすほどの多動性−衝動性,あるいは,注意力障害の症状のいくつかは,7歳以前に出現していること C.症状から生じている障害は,2か所以上の場でみられること(翻えば,学校(あるいは職場)と家庭,など) D.社会的,学業上,あるいは,職業上,臨床的に明らかに支障をきたすほどの購書が毒あることE.広汎性発達障害,精神分裂病やその他の精神疾患(気分障害,不安障害,解離性傷害,など)によるものでない E.,広汎性発達障害、精神分裂病やその他の精神病、その他の精神病(気分障害、不安障害、解離性障害、など)によるものではない * 鑑別診断は最後の表に提示してあります ※下位タイプ 合併型(Combined Type):診断基準A1とA2両方に該当するもの 注意力障害優位型(Predominantly Inattentive Type):診断基準A1に該当するが,A2には該当しないもの 多動性一衝動性優位型(Predominantly Hyperactive-Impulsive Type)診断基準A2 に該当するがA1には該当しないもの |
「落ち着きのない子」の鑑別診断
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