◆咽頭結膜熱

 咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever, PCF)発熱、咽頭炎、眼症状を主とする小児の急性ウイルス性感染症であり、プールでの感染も見られることからプール熱とも呼ばれる

疫 学
 
本疾患の原因であるアデノウイルスは、特に季節特異性がなく年間を通じて分離される。しかしながら、疾患としての咽頭結膜熱は6月頃から徐々に増加しはじめ、7〜8月にピークを形成する夏期の疾患である。通常は学童年齢の罹患が主であるとされているが、感染症発生動向調査での罹患年齢からは、5歳以下が約6割を占めている。感染経路は通常飛沫感染であるが、プールでは結膜からの感染や経口的な感染も考えられる
 最近の発生状況に関しては、過去10年間の同時期と比較して最大の定点当たり報告数が、2000年第41週から2001年第32週まで続いている。

病原体 
 
アデノウイルスは正20面体構造をとるDNAウイルスであり、エンベロープを有しない。51種類の血清型が知られており、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こす。咽頭結膜熱をおこすのは多くは3型、あるいは4型7型であるが、逆に、これらの血清型のアデノウイルスが感染しても、必ずしも咽頭結膜熱の症状を来すとも限らない乳幼児の急性気道感染症の10%前後がアデノウイルス感染症と言われ、アデノウイルスは小児で重要な病原体である。

ヒトアデノウィルスの分類

亜属
A 12,18,31
B 3,7,11,14,16,21,34,35,501
C 1,2,5,6
D 8,9,10,13,15,17,19,20,22〜30
32,33,36,37,38,39,42〜49,51
E 4
F 40,41

*太文字はヒトにおける主要な結膜炎起炎血清型を示す。


臨床症状
 
発熱で発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛結膜炎にともなう結膜充血眼痛羞明(まぶしさ)流涙眼脂(めやに)を訴え、3〜5日間程度持続する眼症状は一般的に片方から始まるが、その後他方にも出現する。また、結膜の炎症は下眼瞼結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いとされる。眼に永続的な障害を残すことはない。また、頚部特に後頚部のリンパ節の腫脹と圧痛を認めることがある。潜伏期は5〜7日とされている。
 咽頭の所見は滲出性扁桃炎のタイプをとることが多く、いわゆる溶連菌感染症と鑑別が必要である。

滲出性扁桃炎 滲出性扁桃炎(滲出のないタイプもある) 滲出性扁桃炎
(溶連菌性の場合:典型例)

病原診断
 
確定診断には、患者の鼻汁、唾液、喀痰、糞便、拭い液や洗浄液、胸水、髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出する。最近、ラテックス凝集(LA)反応や酵素抗体(ELISA)法での抗原検出キットが市販され、早期診断に使用されているが、血清型別の判定はできない。しかしながら、近年遺伝子診断(PCR法や制限酵素切断法など)が可能となり、迅速診断に有用で、簡便かつ型別判定が可能である。
 血清学的診断では急性期と回復期のペア血清を用い、赤血球凝集阻止反応(HI)、補体結合反応(CF)、中和反応(NT)などが行われる。CFは感度の点でやや劣り、しかも血清型の特定はできない。NTおよびHIなどは型特異的な測定法であるとされるが、実際には交叉反応があり、型の特定が困難なこともある。

治療・予防
 特異的治療法はなく、対症療法が中心となる。眼症状が強い場合には、眼科的治療が必要になることもある。
 予防としては、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどである。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石鹸による手洗い、および90%エタノ−ル、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用いる。ただし、エンベロープを持たないアデノウイルスにおいては、消毒用エタノールの消毒効果はエンベロープを持つウイルス(たとえば、ヘルペスウイルスなど)に比較すると弱いとされる。逆性石鹸、イソプロパノールには抵抗性なので注意を要する。7型による感染症は心肺機能に基礎疾患を有する小児で重症化の危険性が高く、特に院内感染対策上重要である。
 
プールを介しての流行に対しては、水泳前後のシャワーなど一般的な予防方法の励行が大切であるが、ときにはプールを一時的に閉鎖する必要もある。

アデノウイルス感染症の重症化
 ここでは咽頭結膜熱から少し離れ、最近問題となっているアデノウイルスによる重症化を取り上げる。
 近年のアデノウイルスの傾向として、以前には少なかった7型が増加したことがあげられる。わが国ではアデノウイルス7型の分離報告は、1994年までは極く少数の散発例のみであったが、1995年以降急激に増加した。注意すべき点は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となり、呼吸障害が進行したり、さらに細菌の二次感染も併発しやすいことである。検査所見として特徴的なことは、血清LDHの異常高値、血球減少傾向、ならびに高サイトカイン血症である。高サイトカイン血症を示唆するフェリチン、β2ミクログロブリンなどの上昇を伴う場合には、ステロイド剤の適応を含め、早急な対応が必要である。感染症関連の学会などでも、各地の医療機関よりアデノウイルス7型感染による重症例の報告が相次いだ。1999年以降7型の分離報告は減少し、その傾向が目立たなくなったが、このウイルスの動向には今後も引き続き注意を払う必要がある。
 また最近、造血幹細胞移植後を含む免疫抑制状態にある患者での重症アデノウイルス感染症が問題になっている。抗ウイルス剤としてリバビリンが有効であったという報告がある一方、無効であったとの報告も散見され、一定の見解は得られていない。2001年のClin. Infect. Dis.にBordigoniらが、造血幹細胞移植後303名のレトロスペクティブ調査の結果を報告しているが、35名にアデノウイルス感染症が発症している。治療として用いたリバビリンとビダラビンには効果がなく、シドフォビアあるいはドナーの白血球輸注を早期に試みる方法の候補として報告している。しかし、リバビリンとシドフォビアは我が国では入手が困難な状況である。

発生動調査について
 咽頭結膜熱は4類感染症定点把握疾患であり、全国約3,000の小児科定点医療機関から週毎に報告がなされている。報告の基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準をすべてを満たすもの
 1. 発熱、咽頭発赤
 2. 結膜充血
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法における取り扱い
 学校保健法では、第二種伝染病に位置づけられており主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではない。


IDWR:2001年第32週掲載