◆ヘルパンギーナ

ヘルパンギーナ(herpangina)は、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性発疹を特徴とし、夏期に流行する小児の急性ウイルス性咽頭炎であり、いわゆる夏かぜの代表的疾患である。その大多数はエンテロウイルス、特にA群コクサッキーウイルスの感染によるものである。

疫 学
 
我が国では毎年5月頃より増加し始め、6〜7月にかけてピークを形成し、8月に減少、9〜10月にかけてほとんど見られなくなる。国内での流行は例年西から東へと推移する。その流行規模はほぼ毎年同様の傾向があるが、1999〜2001年の3年間はそのピーク時において、定点当たりの報告数が例年に比べて高い状況が続いている。患者の年齢は4歳以下がほとんどであり1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4、0歳代の順となる。

病原体 
 
エンテロウイルスとは、ピコルナウイルス科に属する多数のRNAウイルスの総称であり、ポリオウイルスA群コクサッキーウイルス(CA)B群コクサッキーウイルス(CB)エコーウイルスエンテロウイルス(68〜71型)など多くを含む。
 ヘルパンギーナに関してはCAが主な病因であり2、3、4、5、6、10型などの血清型が分離される。なかでもCA4がもっとも多く、CA10、CA6などが続く

またCB、エコーウイルスなどが関係することもある。
 感染経路は主に飛沫感染であり、急性期にもっともウイルスが排泄され感染力が強いが、エンテロウイルス感染としての性格上、回復後にも2〜4週間の長期にわたり便からウイルスが検出される。

主な症状ヘルパンギーナのイラストと臨床経過へのリンク

 2〜4日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1〜2mm、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現する(写真)。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴う。発熱については2〜4日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失する。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがあるが、ほとんどは予後良好である。
写真.口蓋垂付近及び軟口蓋にみられた小水疱性粘膜疹

 エンテロウイルス感染は多彩な病状を示す疾患であり、ヘルパンギーナの場合にもまれには無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがある。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきであるが、項部硬直は見られないことも多い。後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要である。
鑑別診断として、単純ヘルペスウイルス1型による歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあげられる。


病原診断
 確定診断には、患者の口腔内拭い液、特に水疱内容を含んだ材料、糞便、髄膜炎を合併した例では髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出する。遺伝子診断(PCR法や制限酵素切断法など)も可能であるが、一般的ではない。確定診断にはウイルスを分離することが原則である。
血清学的診断は、急性期と回復期のペア血清を用い、中和反応(NT)、補体結合反応(CF)などで、4倍以上の抗体の有意な上昇を確認することで行われる。しかしながら、エンテロウイルスでのCFは交差反応が多いので、一般には行われない。また、実際には臨床症状による診断で十分なことがほとんどである。

治療・予防
 通常は対症療法のみであり、発熱や頭痛などに対してはアセトアミノフェンなどを用いることもある。時には脱水に対する治療が必要なこともある。無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要であるが、後者の場合には特に循環器専門医による治療が望まれる。
 患児の介護者に関しては手洗いを励行するが、流水で洗浄後、アルコールを含む消毒剤を用いる。ただし、エンテロウイルスはエンベロープを有さないウイルスであり、それを有するウイルスに比べてアルコール消毒には抵抗性が強いとされている。便その他の排泄物を扱う場合には、ゴム手袋を着用する。

感染症法における取り扱い
 ヘルパンギーナは4類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関より週毎に届け出がなされる。報告のための基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
 1. 突然の高熱での発症
 2. 口蓋垂付近の水疱疹や潰瘍や発赤
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法における取り扱い
 ヘルパンギーナは学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされておらず、一律に「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはならない。したがって、欠席者が多くなり、授業などに支障をきたしそうな場合、流行の大きさ、あるいは合併症の発生などから保護者の間で不安が多い場合など、「学校長が学校医と相談をして第3種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気」と解釈される。
 本症では、主症状から回復した後もウイルスは長期にわたって便から排泄されることがあるので、急性期のみの登校登園停止による学校・幼稚園・保育園などでの厳密な流行阻止効果は期待ができない。本症の大部分は軽症疾患であり、登校登園については、手足口病と同様、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。


(国立感染症研究所感染症情報センター)