牛伏川床固工群改修
                                                  報告者 :田口

1、今回の改修に関する経緯と概要

 1996年ころ工事が行われた約500mの間に高さ1〜7mの落差がある床固工群(9基)と帯工(10基)がある部分の改修が行われた。
 以前からこの流域(渓流が幾つかある)の砂防工事には反対運動をしていて、この現場はそのうちの一つであった。
我々の力が及ばなかった事で、この部分も工事が行われてしまった。その結果、イワナ、ノギカワゲラ(長野県準絶滅危惧種)、ゲンジボタルなどが殆ど見られなくなった。
同じころ進められていた隣接する他の渓流の砂防工事に関しては、行政側と交渉を進め数年がかりで工法の見直しや改修を行ってきた。
その後、再びこの部分のすぐ上流で今までの学習がゼロに戻るような改修工事の危機にさらされたことで、会員が危機感を持って対応することができた。
今回の改修にあたっては、行政、コンサル、業者、私たちの4者の協議と現場視察を頻繁に行い十分な理解を求めた。
なお、参加された皆さんのそれぞれの協力があってこその結果だと思っていますので、あらためて感謝いたします。

○改修にあたり主な合意点を次に示す。
・イワナの復活を目指す。
・景観的にも生態的にも優れた渓流の流れを復元する。
・優れた自然渓流を視察し、石の組み方、落ち込みや流れの変化、生き物の生息環境を十分に理解しそれをまねる。
・自然渓流の石組みの持つ砂防機能を理解する。
・設計段階から会が参加する。
・問題点が出てきたら十分に協議する。

○改修工法と留意点
・床固工は、高さ(落差)の6〜7割くらいを壊し、残った落差分を大石を流れに向かってアーチ状にならべる(Fig2)。
結果的に砂防機能が維持されるようになる。
堤を全部撤去した場合、堤防根固め部分が露出するので堤防工事も必要になる。従って工費(6千万円)の関係上部分的に壊す方法がとられた。
石組みは護岸と護岸を結ぶ様につなげて強度が出るように配置し、中間に親石(重量が多いもの)を入れるようにする。石は上流に向かって頭を下げるように置く。

・石の配置は、人工的にならないように注意を払う。Fig3
高さや尻の出っぱりなど、たえず水の流れを想像しながら配置していく。流れの分流、方向なども十分考慮しながら進める。

・落ち込みの部分が洗堀を受け崩壊しないように工夫する。 Fig4
石尻直下に石を敷いたりはめたりして洗堀に対する強度を高める。

・川の何処に水が流れても強度や景観が損なわれないよう配慮する。
当面の澪筋は想定するが、流れは絶えず変わるので何処に流れても機能するように石の配置を行う。
 
・落差(20〜40cm)上限やプールの水深は十分にとれるよう配慮する。

2、改修に関する課題、問題点

・基本高水の見直し。
 過大に設定されている基本高水があるため、用いる石を大きくしなければ設計できなくなる。川の実態に合わないものになってしまう。

・ダム単独の場合と床固工群などで改修や壊し方が変わってくる。
 ダム工と護岸工との関連によって、改修予算規模で工事範囲が決まってしまう。ダム単独ならば全面撤去もできる場合がある。

・撤去時のヘドロ処理について。
 大きなダムの場合は、ダム内に堆積しているヘドロなどの処理の仕方をあらかじめ考慮しなければならない場合もある。

・石組み渓流工は砂防機能を持っている。
 この工法は砂防機能を持っているので、従来の砂防建設根拠の中で使われていく可能性が高い。
必要のない場所への工事は止めるべきで、基本的には既存ダムの改修用として使うべき。

・上流からの土砂供給の必要性。
 この工法は上流からの適度な土砂の供給が止まると、落ち込み部の洗堀が続き崩壊する可能性が出る。
土砂供給される条件を考慮しておくことが必要である。

・渓畔林をつくらないと、夏場の水温上昇に影響が出る。
大きめの石が太陽光を受けて熱を帯びやすく流水を暖めるので立木などで日陰をつくることが必要。

・生き物などの復活を目的とする場合は、種場を確保することが必要。
 広い範囲を一気に改修すると対象生物の再生に支障をきたす場合があり、工事前の調査と再生の可能性を吟味する必要がある。

・工事前後での生態調査をおこない、工事目的を達成できたか検証を行う。

・行政主導だと全国一律になってしまう。
渓流はそれぞれ個性があるので、環境団体、地元民、市民など渓をよく知っている人間が参加することが大切。



 Fig1                         Fig2


 Fig3                          Fig4


 Fig5


専門部の活動状況

1.牛伏川渓流復元活動