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2007年4月30日
海を見ていた

潮風に包まれて、

水平線の彼方から、

波は蕩来し、蕩去し、

幾星霜も続いたであろう、

繰り返しを、

今日の春の長閑な日々も反復する。



私の足元に、

寄せては引く流砂は、

どのくらい遠方から、

はるばると来たのだろうか。

あるいは、どこの峻険を削って、

海に辿り着いたのだろう。



私の思惟に関係なく、

あくまで海は青く、

水平線は遠く、

潮風は優しく頬を撫でた。



春の日の午後、

ただ、海を見て、

ひとり、茫然として佇む。

まるで憑き物がついたように。



やがて、決然と背を向けて、

遠くなる潮鳴りを聞きつつ、

歩む足取りの確かさを確認する。



海、春の一日、満ち足りた気分。

また、潮風を匂ぐ日まで、

圧倒的なスケールで私の心を支配するに違いない。


2007.04.30 奴名川姫の郷にて


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