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2006年1月1日
高校入試の頃

僕は中学3年から大学1年まで足掛け5年間、新聞配達、朝刊の配達のバイトをやっていた。これはこれで、人生の中で非常によい経験になったが、今回の話題は少し違う。

中学3年のある朝、新聞配達所へ行くと店長が言う。「君、3月の○日は是非とも休まないでくれたまえ。高校入試の日なので休む子供が多いんだ。」僕は、ハイわかりました。決してやすみませんと即答したが、実はその日は僕だって入試の日だった。僕は「ふうん、みんなバイト休んで入試を受けるんだ。」と妙に感心した。

当日の朝、新聞配達所で、店長が何気なく僕に「ところで君は何年生だい?」と聞くので、「3年生です。」と答えると、店長はエエッという顔をして「じゃあ君も今日が入試じゃあないか」という。「はい。そうです。」「どこの高校を受験するんだ。」「A高校です。」ここで店長はさらに驚いて「バイトになんか来ていて大丈夫なのか。」と叫んだ。当日、入試を理由に休んでいる子供達より、2ランクも3ランクも上の高校だったからかもしれない。「普段の生活を変えないほうがいいと思いまして。」と僕は答えたが、強がりでもなんでもない、まったく正直な気持ちだった。「そうか。わるいな。」店長は実際のところ、休む人数が増えなかったことに感謝したように言った。

その入試の日は、いつもと変わらぬペースで一日を過ごした。もちろん、試験の出来は悪いはずがなく、僕は合格を確信した。翌日の朝、いつもとおりに新聞配達所へいくと、店長が「昨日はどうだった」と聞くので、「いつもどおりやっただけです。」と答えた。合格発表の日も、朝、新聞を配り終えると、友達と時間の待ち合わせをして、みんなで発表を見に行った。まず、自分が受験してもいないF高校の発表を見て、友達の名前があるのを確認し、次いで、まったく関係ない女子高のG高校を見に行き、M高校を回り、最後に自分のA高校を見に行った。落第しているという気持ちなどさらさらになかった証拠である。自分の名前があるのを確認すると、家へ帰った。

合格発表の次の日、新聞配達所にいくと店長がおそるおそる「どうだった」と聞いたので、「受かりました。」と答えた。今から30年以上前の懐かしい記憶である。それにしても、若いというか、世の中の厳しさを知らないというか、なんと思い上がっていたのだろうと、今、思えばヒヤヒヤするばかりだ。自分の子供が受験世代になって、なおさらその思いは強い。

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