束間の偏話12 
1994年10月23日 「音楽1(ヘンデル)」

 中学の時、音楽会でヘンデル作曲のハレルヤコーラスというのを皆でやらされて、その頃からバロック音楽に僅かな興味を持ち始めた。ベートーベンやベルリオーズなどは以前から興味があって聞いていたが、丁度、ビバルディが日本で見直されていた頃だった。
音楽の教師が言うにはハレルヤコーラスというのは、もっとずっと長い曲の一部だというので、その「メサイア」というオラトリオ(聖譚歌と邦訳するそうだ)全曲の3枚組のレコードを買って聞いたのが3年生の頃だったと思う。これがなかなか感じが良かったので気にいってしまった。それからはラジオやテレビでメサイアを演る時は欠かさず聞いたり録音した。ただ「かなり派手だな」という印象があり、ヘンデルという作曲家の曲は派手なものだと思いこんでいた。

ところが、確か大学生の頃だと思うが、FMラジオで楽曲聞き比べというような番組があって、メサイアが取り上げられていてびっくりしてしまった。「最近のイギリスでバロック研究者によって復元された、ヘンデル時代の演奏の再現」というのを聞いたのである。いままで演奏されていた現代のメサイアと比べてこんなに違うものかと、極端な言い方をすれば、天地がひっくり返るほど驚いた。
古楽器、小規模な編成、抑制された響き、派手なビブラートのないストレートな発声。今までの派手でけばけばしい、将に劇場用と言わんばかりのメサイアとは違う、清楚な姿を見た気がした。それからは、ヘンデルという作曲家自体、現代において、かなり誤解されてきたのではないかと思うようになった。彼の作品は彼の時代では今よりずっとずっと控え目な響きを持っていたのではないか。そう思うと、急にヘンデルに対する興味が湧いてきた。

彼はいくつもの有名なオラトリオを残している。私は今のところメサイアと、彼の最後のオラトリオであるイェフタの、2作のCDしか持っていないが、聞けば聞く程に引き込まれる。イェフタは以前ラジオで聞いて感動したがレコードが手に入らず、数年後にやっと入手した輸入版を聞いた時は、まるで古い友達に再会したみたいで、座り込んだまま、しばらく動くこともできなかった。

古楽アカデミーで意欲的に活動している指揮者たち、ピノック、ホヴウッド、アーノンクール、コープマン。こんなところの演奏は、近くへ来たら是非聞きに行きたい。東京なんぞへのこのこ出て行く余裕はないが、テレビやラジオの機会は逃すまいと思っている。


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